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ほそ川 (東京 両国)

2.理想のそばを追い求めて

■理想は草に似た味わいそば

そばに大切なものって、まずは香りだよね。 香りがないのはそばじゃないって思うね。もちろん、味も大事だよね。 旨いそばはそのまま食べたくなるの。つゆも浸けたくないぐらい。 飲み込んだ後に、胃の奥からふわっと香りや甘味が返ってくる。 それが俺の考える旨いそばだよね。

今、使っている玄そばは、茨城なら金砂郷、山方町などのもの。 あと、最近は四国・祖谷のもいいね。それぞれに特徴があって、金砂郷のそばは味が濃くて、ワインで言えばボルドータイプ。 祖谷のそばは軽やかで、ワインならブルゴーニュだね。 俺んちでは、毎日、産地の違う2種類のそばを打つでしょ。そのうちの一つは文句なしに旨いっていうのを出して、もう一つは遊び感覚っていうのかな、まったく違うタイプを選ぶの。 別々の玄そばを混ぜるなんてことしたくないね。個性が消えちゃうから。 せいろの追加を頼まれたら、最初とは別のそばを出すようにしている。 食べ比べて、違いをわかってもらえたら嬉しいよね。

■ゼロから始めた農家開拓

このところ農家から玄そばを買う店は増えているけど、俺ほど農家のところに行っている人間はそういないと思うね。 収穫の時期には四国のような遠いところ以外は、必ず、自分で玄そばを取りに行くよ。 ソバを作っている人って80歳を過ぎているようなお年寄りが多いでしょ。「どう、元気?」って顔を出すと喜ぶんだよね。

農家を回る時は大抵、一人だね。 店の若いやつらにも、買っているところは教えない。やっぱり自分で開拓しなきゃ。 俺も飛び込みで農家に行って、関係を築いてきたわけだし。 生産者を探す時、まず見るのは畑の環境だね。 冬で何も植えてない畑でも、石ころがゴロゴロしていて、日当りがよくて水はけもよさそうなところ見つけたら、その農家に飛び込んでソバを作っているかどうか訊くの。 もし、作ってなかったら、ソバを栽培してもらえないかって頼むこともあるね。

 農家の人にしてみたら、いきなり知らないヤツが来るわけでしょ。そう簡単には売ってくれないよ。だから、何回も足を運んで、「お茶でも飲むか」って敷居をまたがせてくれたところからが始まりだね。その後も、なにかにつけて顔を出して、親戚関係ぐらいに親しくならないといい玄そばは分けてもらえない。そうなるまでは本当、長いよ。

■生産者の姿勢が味を左右する

どんなに環境がよくても、原料の良し悪しは作り手で変わるよね。ソバは夏のお盆前後に種を蒔いて秋に刈り取るから、2ヵ月ちょっとでできる。あとの10ヵ月はなにも栽培しないと、草ボウボウで除草剤を蒔かれちゃうことがある。刈った後も、直接、土の上に置いて干すようなところは、赤い“焼け”も増える気がするね。

 マメな農家だと、ソバを蒔く前にはタバコの葉を作って、ソバの後には小麦などを栽培して、といつも何かが植わっている。そういう畑のほうが旨いんだよね。刈り取り後もはざ掛け(茎を上にして吊るして干す方法)で天日干しさせることで、一段と味が良くなる。働きものの農家でないと、いい蕎麦はできないと思うね。

 よく「水分量は何%に調整しているんですか」って訊かれるんだけど、何%に乾かしてくれなんて注文したことは一度もない。農家のお年寄りに言ったってわからないもの。  自分では水分量を計ることもあるけど、多いか少ないかは、製粉や水回しをすればすぐわかる。ただ、水回しの時の加水量は気温や湿度で変わるから、記録しておくようにしているね。一年間で100ccぐらい違ってくる原料もあるからね。  それで、農家の人には「前の年は水分が少なかったから、今年は2日干すところをもうちょっと早めに切り上げて」とか、そんな風に伝えるの。そうやって一年一年工夫して、いい原料が手に入るようになったんだよね。

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