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村屋東亭 (茨城県鉾田市)

茨城県鉾田市の郊外に佇む「村屋東亭」。

主人の渡辺維新さんは、穏やかな人柄とともに、蕎麦に対する溢れる情熱の持ち主として知られている。 「一茶庵」 の創始者、故・片倉康雄氏の教えを受け継ぎながら、手打ち蕎麦や自家製粉に取り組んできた渡辺さんのその歩みを語っていただいた。

村屋東亭

広い敷地に 村屋東亭 (クリックで拡大)

1.人生を変えた蕎聖・片倉康雄氏との出会い

地下鉄の運転手からの転身

渡辺維新さん

主人の 「渡辺維新」 さん

私は 「村屋東亭」 としては創始者だけれど、「村屋」 という屋号では三代目になるんですよ。 女房のうちが蕎麦屋をやっていて、そこに婿養子に入ったんです。

高校時代は航空自衛隊のパイロットになりたくてね。 ラグビー部の先輩が自衛隊に入隊して、その制服姿に憧れていた。 自衛隊の試験を受けたけれど、子供の頃のケガが原因でひとさし指が曲がらなくなっていて、不合格になってしまったんです。  それで、東京に行って、今の東京メトロに就職しました。 当時は帝都高速度交通営団という社名でね。 制服も着られるでしょ。 まずは改札係をやって、丸の内線の車掌になり、その後、乗務員試験を受けて開通したばかりの日比谷線の運転手になったんです。

でもね、毎日、同じところを運転していると飽きちゃうんですよ。 このまま東京の地下を往復していても仕方ないなと思って、5年ほど勤めてから水戸のトヨタ自動車に転職した。 陸送されてきた車を売る前に点検し直すのが仕事でね。 そんなことをしているうちに、女房との縁談が持ち上がったわけです。

夢をくれた師の言葉

女房の生家である 「村屋」 は、大正7年の創業。 私が生まれた育った茨城県鉾田の中心地にありました。 初代にあたる女房のおじいさんは手打ちでやっていたけれど、義父の代では機械打ちの普通の蕎麦屋になっていた。 当時、日本は高度経済成長のまっただ中だから、結構、繁盛していましたよ。 ただ、正直、あまりおいしいとは思わなかったね。

そんな私の人生を大きく変えたのが、「一茶庵」 の創始者、片倉康雄先生との出会いです。 初めて会ったのは1966(昭和41)年、私が27歳の時でしたね。  先生のことを知ったのは、「美々卯」 のご主人が出した蕎麦の本。 その中で、手打ち蕎麦の章を先生が書いていたんです。 読んだら、もう、たまらなく会いたくなって、コンタクトも取らずに、先生の自宅に押し掛けました。

御前せいろ

純米酒 750円  そば味噌 300円

生憎、留守だったけれど、近くの床屋さんで4時間ぐらい待たせてもらって。 先生は、突然、訪ねたにも関わらず、夜中の1時頃までいろいろな話を聞かせてくれました。  蕎麦屋の集まりでは、物価が高くなっただとか愚痴が多くなるものですが、片倉先生は蕎麦の魅力を語り、夢をくれる。 たとえば、「おいしい蕎麦をつくれば、どんな場所でも商売はできる」 と確信を持って先生は言うんですね。 すると、不思議なもので、本当にやれる気になるんです。  「おいしい蕎麦を作れば、さまざまな出会いが生まれ、人生が広がる」 という話もよくされていました。 特に、医者や学者といった “者”のつく人は、教えられることが多いから、どんどん付き合いなさい、と。 事実、片倉先生はそうした幅広い交流を持っていましたね。 

毎月の太田通いで学んだこと

先生に出会ってから、手打ち蕎麦への思いも強くなりました。 東京・西神田にあった 「一茶庵」 に食べに行ってみて、やはり手打ちは違うなぁ、と。 芥子切りや柚子切りといった変わり蕎麦もあって、蕎麦で季節感が出せることを知って、さらに夢が広がりました。

それから、毎月、毎月、時間を見つけては、先生のもとに通い始めました。 鉾田から先生の自宅がある群馬県太田までは、車を飛ばして3時間ほど。 早く会いたいばかりに朝方4時頃に着いてしまうこともあって、先生が起きるのをじっと車の中で待っているんです。   当時、先生は600〜700gぐらいの軽い蕎麦包丁を作ろうとしていて、包丁研ぎの工房に同行させてもらったこともありました。 驚いたことに、先生は包丁を研ぐ作業を2時間でも3時間でも見ている。 おそらく、状態の変化を観察していたんでしょう。 その姿に 「すごい人だ」 と感じました。  料理でも、私が手土産で持っていった白魚を、一尾一尾、頭を揃えてきれいに並べて煮るんです。 頭が取れると価値がなくなるというんですね。こういう丁寧な仕事にも感服しましたね。

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