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ほそ川 (東京 両国)

3.唯一無二のおいしさを探求

■足と舌を駆使して食材探し

新しいメニューが浮かぶのは、やっぱりいい素材と出会った時だね。 これをそばにのせて食べたら旨いだろうな、とか。 まずいものをいくら料理しても旨くならないから。 いい素材を手に入れるには、作っている人に直接送ってもらうのが一番だね。 ワンクッション入ると変わってきちゃう。 人に紹介してもらったところでも、絶対に自分で産地まで足を運ぶ。 玄そばを探すのと同じで、何回も行って、親戚関係にならないとダメなの。

生産者にはこういうのが欲しいって希望を伝えて、それに合うものを送ってもらう。 でもね、たまに、小さいものとか、こっちの希望とは違うものも頼んだりするよ。 使い道はないけど、向こうだって、余ると困るだろうから。 生産者と直接つき合うには、そういう配慮も大事だよね。 いいものを欲しい時には、「負けてくれ」なんて絶対言わないこと。逆に、金をいくらでも出すからいいのをくれっていうのもダメ。 それじゃ足元を見られちゃうよ。 安くたって選べばいいものがある。要するに、素材を見る目があるかどうかだよね。

穴子天せいろ

穴子天せいろ

■穴子天せいろ誕生秘話

穴子の天ぷらを始めたのは、開店して2、3年経った頃だね。それまではうちも海老の天せいろを出してたの。 天ぷら屋で使うような才巻海老を仕入れて、注文を受けると殻を剥いて揚げて。 ただ、才巻って入荷にばらつきがあって、値段の変動も大きい。 急いで殻を剥くと指を刺しちゃうし。 そんな時に、銀座にある天ぷらの「近藤」さんで穴子を食べて、こっちのほうがいいなぁって思ったんだよね。 穴子なら割いておけるでしょ。 板前やっていた頃、穴子をよく割いていたから。 近藤さんは吉川の店によく食べに来てくれて、「もうちょっと皮のほうをよく揚げたほうがいい」とかいろいろ教えてくれた。 そのうち、この穴子天付きせいろが評判になってね。 今もよく出るね。

穴子の産地はその時々で違って、江戸前もいいけど、最近、旨いと思うのは大阪湾。 身がふっくらと厚くて、とろっとしてるの。 あと、このところ人気があるのは野菜の天ぷらだね。 俺んちではニンジン カブ、自然薯、小ナス、ジャガイモのメイクィーンといった野菜を、皮つきでまるごと揚げちゃうの。 揚がるまで20分ぐらいかかるのもあるけれど、旨いよぉ。 ニンジンやジャガイモなんて、ホクホクジューシーで、ものすごく甘くなるの。 ジャガイモは皮のところが香ばしくて、それがまたいいんだよね。

この野菜の天ぷらは、まったくのオリジナル。栃木や茨城の生産者から送ってもらう野菜が旨くて、揚げたらもっと旨くなるだろうって思って考えたの。 できれば一口目は、塩も天つゆもなにもつけないで食べてほしいね。素材の味がよくわかるから。

季節の蕎麦

若竹そば (4月の種物)

■種物で季節感を演出

そばの中で季節感が出せるのは種物だよね。 うちは一年を通じて何種類もあって、それを季節に応じてメニューに入れていく。 これもやっぱり素材ありきだね。 いい素材があって、それをどうやって食べたら旨いかを考える。 ごちゃごちゃ手を入れたものは出したくないね。 旨さがわからなくなっちゃうから。 どれも一番いい時季にしか出さないから、メニューにのせるは長くて二ヵ月ぐらい。 一ヵ月ぐらいで終わっちゃうのもあるね。

たとえば、夏ならひや賀茂なすそば。京都の賀茂なすを素揚げして熱々のだしで煮るの。それを冷たくして冷かけの上にのせるんだけど、とろっとして旨味もしっかりあって、なんとも言えないんだ。 夏は北海道・昆布森の牡蠣を使ったそばも出していて、評判がよかったね。牡蠣を探して北海道まで飛んで、昆布森の漁協にあたってね。ただ、今年は震災の影響で出せても少しかな。

その後、秋になるとなめこそばだね。なめこは天然じゃないけど、山で採れるものだから、腐葉土がついたまま送られてくるの。 大きくて味も濃くて、そこらへんに売っているなめことは全然違うよ。 冬限定で出しているのは、青ねぎおろしそばと鴨南蛮そば。 青ねぎおろしは、冬に採れる京都・鷹峯の青ねぎと辛味大根がポイント。九条ねぎじゃ同じ味にならないの。 青ねぎは寒くなって鼻水(おねば)が溜る頃になるとより旨くなるよね。 辛みの中に甘さがって、それがいいの。大根も辛いから食べるとむせるんだけど、なんかクセになって、これを考えついた時は毎日食べてたね。

鴨南蛮もうちのは面白いよ。 鴨肉は汁で煮るのでなく、ローストした後にオーブンで焼いて脂を落とすの。 これはね、岐阜の「開化亭」の鴨料理を食って思いついたんだ。 鴨肉はフランスのシャラン鴨。レアに火を入れて、そこに熱々の汁がかかるときれいに霜降りになるんだよね。 こういう鴨南蛮はどこもやってないから、我ながら発想がよかったと思うね。

 冬の二品が終わって、春になると若竹そばだね。 これは今年から出し始めたの。筍はやっぱり京都のが旨いよね。 歯触りが繊細で香りがいいんだ。 こういう季節のそばは、その時々で品書きに貼ることにしたの。冬季限定って書いてあっても鴨南蛮をくれとか言うお客さんが多くて。 旬が分からない人が増えているのは、なんか寂しいよね。

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