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竹やぶ

2.自分らしい 「生き様」 を求めて

時代に合わせた生き方が肝心

22歳の時に柏駅前で店を始めてから、44年経ちました。 この間、いつも元気に楽しく前向きでいられるのは、時代に合わせて生きてきたからでしょう。 お金に余裕がある時は器や食べ歩きなどに使うけれど、ない時はない時なりに工夫して楽しむことができる。 不況のこの時代でも、例えが悪いのですが、戦争が起きたって楽しく生きる自信があります。

「不況だから」とか「時代が悪い」とか言って嘆く人がよくいるけれど、そんなのは全部、自分のせい。 他人や時代のせいにするのはバカです。 そういう人は行動せずに頭でばかり考えたり、人の意見に振り回されたり。 いつまでもそのままですよ。

仕事をするうえでも同じです。 僕は売り上げがたとえゼロだって驚かないし、朝から晩までお客さんがひっきりなし来ても舞い上がらない。親しくしている落語家の柳家小満んさんには「阿部さんのところは、どんな時代でも値段を下げないのが偉いね」と言われたけれど、お客さんが入らないからと値段を下げるくらいなら、僕はうどん屋とかお粥屋とか、別の商売を始めるつもりです。

もちろん、これまで店をやってきて、ピンチは何回も経験しています。家賃を払えないこともあったし、大工さんに持ち逃げされたこともある。でも、そこからいい方向に向かっていった。  大事なのは、見栄を張らないってことかな。みんな、着飾っちゃうからおかしくなる。脱いで裸で出発すればラクだと思いますよ。

創業者 阿部孝雄さん

創業者の「阿部孝雄」さん

食べ歩きは長所を探してこそ

僕は蕎麦の歴史には詳しくないけれど、食べ歩きに関しては自信があります。日本料理やフランス料理などジャンルは問わず、蕎麦屋にもよく行きます。この時、絶対にしないのは、欠点を探すこと。

行きたいと思った店には、なにかしらいいところがある。たとえば、器が素晴らしい、椅子が座りやすい、トイレがきれいとか。人間誰しも欠点があるし、神様だって欠点はあるかもしれない。それを探しても意味のないことで、欠点が長所になることもあるわけです。

この食べ歩きで味の感覚も磨かれたと思いますし、何よりも素晴らしい出会いにも恵まれました。 今、僕が好きな店は、日本料理なら京都の「おきな」。温かいもてなしをしてくれて、ご主人が自然体なんです。栃木県日光市「グルマンズ和牛」や長野県大鹿村「旅舎・右馬允(うまのじょう)」もよく伺っています。素晴らしいのは、見えないところにもきちんと仕事がしてあること。これはとても大事です。

若手のお蕎麦屋さんでは、山形県天童市「吉里吉里」と長野県安曇野市 「ふじもり」が好きですね。 惹かれるのは人間性。 志があって謙虚だし、人柄が店にいると伝わってくる。 蕎麦はまだまだだけれど、この先、伸びるはず。 蕎麦は技術じゃないんです。

一流を知ると見えてくること

一流を知ることもとても大切です。僕は壁にぶつかる度に、上には上があると思い知り、「店をやっている以上、トップを見よう」とレストラン、ホテル、旅館など一流と呼ばれるところに足を運んだし、人間国宝の陶芸家のところもよく回りましたね。

トップの方の話を聞くと、いろいろなことが見えてきます。京都の割烹「千花」の先代の言葉で印象深いのは、「50、60の素材で100の仕事できませんよ」という話です。

また、「阿部くん、蕎麦は小さい鍋で茹でたほうがうまいね」 と電話をいただいたこともあります。 大きい鍋のほうが温度が下がりにくく、うまく茹でられるのが“常識”となっていますが、その分、旨味は湯に逃げてしまう。 料理の決まりごとには、“逆もまた真なり”という場合もあるのです。 ただし、一流を知るのと一流の物真似をするのとは違います。

僕は若い頃、北大路魯山人に憧れて茶道を勉強しました。ところが、ある方に「侘び寂びは、人を殺すか殺されるかぐらいの境地で身につくものだよ」と諭された。 絵画を習った時にも、友人の画家に「習えば習うほどコピーになっていくよ」と言われてやめました。

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