竹やぶ
3.「竹やぶ」 の今とこれから
女将のパワーと後継者の意欲
「竹やぶ」では僕にばかり光があたっていますが、女房の力はとんでもなく大きい。 まさに縁の下の力持ちです。僕たち男は理想論に走りがちだけれど、女性は現実的に物事を見ている。 特に女房は度量があって手のひらで遊ばせてくれた。 おそらく、そういう女性でないと男は伸びないし、人間的な魅力も出てこないんじゃないかな。
次世代へのバトンタッチも進んでいます。 柏本店は長男が受け継ぎ、箱根店は次男が切り盛りしています。 「味は一代」というのが僕の考えであって、二代目は自分なりの味でお客さんに育ててもらえばいい。 「息子にやらせるようになったら、売り上げが半分になっても、絶対に手をださないようにしなさい」と教わったこともあります。
だから、僕はよほど忙しい時以外は、店にいても庭いじりしています。「自分がやらないといけないんだ」、と息子たちが感じることが、血となり肉となる。最初は頼りなかったけれど、ずいぶん責任感が出て来たように思います。お客さんが息子に「ごちそうさま」と声をかけてくださるところを見ると、すごく嬉しいですね。
修業後は、「10」 の力で 「0」 から出発
中国に、「お金を儲けるのは愚人、物を残すのは凡人、人を育てるのが賢人」という意味の故事があるんです。いい言葉でしょ? うちを巣立っていった子もずいぶん増えました。僕にとって彼らは仲間であり、家族であり、ライバルでもある。縁があってうちに来た子たちですから、たとえいい辞め方をしなくても、うまく生きてほしいなと心から思います。
修業は5年以上、せめて3年は続けてほしい。けれど、人間、一生一人前になることはないのだから、挨拶と掃除ができれば……とも思います。うちでは毎朝、お茶とお菓子で一息入れながらミーティングをします。 僕の考えや経験を話すのですが、それが役立ったと言ってくれる子もいます。若い時分は職人的だったから、よく怒ったし、蹴飛ばしたこともあります。
でもね、最近、わかってきたのは、人間というのは階段を急激には上がれない。 自分が持てるものを10個集めたなら、それを払いのけて、さらに上に行く。 そうやって一歩ずつ上がるのが向上なんですよ。
蕎麦屋を始める人には、1の勉強しかしないで10の力を出そうとする人が多い気がします。だから、上手くいかない。 倒れやすいんです。うちの若い子たちには、「10の力をつけて0から出発しなさい」とよく言います。 そうすれば、最初はお客さんが来なくても、いずれ食べていけるようになるから、と。
「2011年7月31日、六本木店は閉店します」
僕の夢は山奥に小さな庵を結んで、晴耕雨読の暮らしをすること。 ここに好きな人だけを招いて、手ずからの料理でもてなそうと思っています。 ただ、今はちょっと変わって、嫌いな人も呼んでみようかなって。なぜだか、そう思うようになったのです。
もっとも、それまでにはまだやることがあります。箱根店は開店以来、外の部分がガラリと変え、さらに面白い店になっていくはず。 柏の店は、長男に完全にバトンタッチする時には、もっとこじんまりとした店にしたいとも思っています。
六本木店については、実は、来年の7月31日でピリオドを打つことにしました。 もともとこの店を始める時に、「一番、いい時期にやめよう」と思っていました。 『ミシュランガイド東京』で星をいただき、連日、たくさんのお客さんが足を運んでくださっている。最も充実している今こそ、引き際だと感じたのです。 閉店までの残りの三ヵ月間は、毎日、六本木店に詰めて、僕がつくった招き猫を欲しい方には差し上げようとか、そんなことを考えています。
その後は、2ヵ月に1度ぐらい、柏で「二笑塾」(※“二笑”は阿部さんの雅号)を開く構想もあります。 今も手弁当で講演や蕎麦打ちの指導に行っていますが、悩んでいる人に理想論でなく、自分が生きて行動してきたことを話して何か役に立てば、と。
僕はこれまでどれだけ多くの方にお世話になってきたか。 輪廻というか、蕎麦によって育てられた今、迷える人にアドバイスするのがせめてもの恩返しだと思っています。
<お店情報>
店名 | : | 竹やぶ |
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住所 | : | 柏本店 千葉県柏市柏1144-2 |
TEL | : | 04-7163-9838 |
営業時間 | : | 11時45分~20時(L.O.19時30分) |
定休日 | : | 毎週木曜日 |
アクセス | : | JR 柏駅 徒歩20分 |
メニュー | : | 詳細は 「竹やぶHP」 をご覧ください |