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HOME > 蕎麦屋時間を愉しむ > 「雙柿庵」 東京都日の出町

まずは蕎麦前、燗銅壺でお燗酒を

まずは蕎麦前を。 この店の夏の愉しみといえば濁り酒である。 濁り酒は冬のものだが、夏に美味しい濁り酒が入手できると出していたため名物のようになっていた。 ぬる燗で飲む夏の濁り酒は例えようもなく美味しい記憶だったが、残念ながら夏の終わりに濁り酒はなかった。 代わりに十周年記念の振る舞い酒「鯉川」の大吟醸を冷やで。冴え渡る大吟醸ではなく、包みこむような柔らかな味わい。 こういう日にはこういう日本酒が心と身体に染み入る。 次は同じく「鯉川」の純米吟醸「亀治好日」。女将さんが楽しそうに用意してくれたのは一人用の燗銅壺だ。 炭火を忍ばせて湯煎する。これはいい。 愉しみがまた一つ増えた。この店では店主の好みでお燗に向いた日本酒を揃えている。 「鯉川」などはまさに燗酒向きの酒。 純米お燗派の一人となった現在、この酒の選び方、飲み方は何よりも好ましい。

築地から魚を仕入れて定番つまみとは違う料理を

はじめに出されたのが「じゃがいものすり流し」冬は温かい蕎麦湯に代わるという。 続いて蕎麦豆腐。蕎麦豆腐とオクラの葛寄せの二層になっている。 杓文字に青ねぎの炙り味噌。 ジャコや昆布の炊いたものを添えてある。  燗銅壺では「鯉川」がそろそろ飲み頃だ。 
料理をつまみながら燗酒を飲み始める。 冷やで飲んだときはすっきりと飲みやすい酒が、徐々にふくらみを帯びて旨みが増してきた。  盃が進んだところで盛り合わせ料理。 金目鯛の空揚げを中心に、鴨のハツ、鰯を炊いたもの、ノドグロの真子の煮凝り、フランスシャラン産鴨ロースとパテなどなど。 
大きなプレート皿に美しく盛られて供される。 蕎麦屋の定番素材である鴨のほかに魚も大胆に使っているのに驚く。 本来、蕎麦屋は生の魚を使わないのが不文律だが、澁田さんは築地から魚を仕入れている。 
しかし、魚を使ったとしても漬けにするといった手間を加えて、生ものは出さない。

「蕎麦屋の範疇で料理を出す」酒肴

「あくまでもお酒を飲むためのつまみ。 居酒屋も懐石料理もやるつもりはない。 蕎麦屋の範疇で料理を出したい」  という。 味も江戸前。
京風や塩ベースではなく醤油ベースの甘じょっぱい味つけ。 素材なら鱧より穴子だ。  「天穏」の純米吟醸に移って少し飲み疲れたところで、さらしなの十割。 ごく少量の箸休めのような蕎麦がさりげなく出てきた。 続いて出し巻き玉子。

じゃがいものすり流し

蕎麦豆腐とオクラの葛寄せ

酒菜の盛り込み

 

締めの蕎麦は常陸秋そば、手挽きの十割

締めの蕎麦はいつものように手挽きの十割。 茨城県筑西産の常陸秋そばを玄蕎麦から挽いた粗挽きの蕎麦である。 蕎麦の風味が強くなく、料理の後にはほどよいバランスだ。 粗い蕎麦が口中をこそげ落として爽やかにしてくれる。
この店では開店以来十年、ずっと手挽きの蕎麦を使っている。 久しぶりに見る店主の胸板や腕は開店当初よりも厚く逞しくなっていた。
その努力にはただただ頭が下がる。 ストイックなまでに蕎麦に料理にと追求する姿勢が、「半年で潰れる」 と言われていた店を人気店に押し上げた。 



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