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たなか (西東京 ひばりヶ丘)

「たなか」 があるのは、東京・ひばりが丘の住宅地。

主人の田中國安さんは、半世紀に及ぶキャリアを持つ蕎麦界の大ベテランであり、かつては練馬の環七沿いで行列の絶えない人気店を営んでいたことでも知られている。 固定観念にとらわれない蕎麦へのアプローチは、まさに旺盛な探究心の賜物。 蕎麦のこと、つゆのこと、さらに蕎麦屋という商売について、じっくりと伺った。

たなか

住宅地にたたずむ たなか (クリックで拡大)

1.住宅地で愛される「手造り」の味

ワンコインで食べられる蕎麦

かけ

かけ 500円

ひばりが丘に店を開いて、早いものでもう12年。 実を言うとね、ここに引っ越してきた時は、店をするつもりはまったくなかったんですよ。 孫の智史が「じいじと同じ道に進みたい」 と言い出したのがきっかけだったの。

お金はいくら残してもすぐになくなるけれど、店を残してやれば、食べていくことはできる。 蕎麦の技術も、財産になりますからね。 ただ、孫と娘でやっていける店となると、品数は少ないほうがいい。それで、蕎麦は御膳せいろとかけだけに、絞ることにしたんです。

前の店を整理した後、女房といろんな蕎麦屋さんを食べ歩いてね。女房は蕎麦好きなほうですが、「ちょっと、これ食べてよ」とお互い譲り合ってしまう蕎麦が多かった。 値段も高いなと実感してね。 だから、せいろもかけも500円。値段は開店当初から100円だけ上げているんですが、それでもどちらもワンコインですよ。

その蕎麦は丸抜きを仕入れて石臼で挽き、外一で打ちます。 産地は茨城産、北海道産などに加えて、タスマニア産も10年近く前から使っています。 タスマニア産なら春に新蕎麦を召し上がっていただけるんですね。 それに、向こうは健全粒95%以上でなければ出荷できない厳しい規制があって、これは日本の一等クラスにあたるそうです。 冷蔵船で運ばれてくるので、その点でも安心ですよ。

この店では、お酒を一切、置かないことにしました。 だから、回転率はいいですよ。 待っている方がいる時には、召し上がったお客さんに「お席を譲っていただけますか」とお願いすることもあるんですが、お酒があると、もしコップにビールが少しでも残っていたら、「帰って」とは言えない。 まぁ、お酒のない蕎麦屋は、日本中探してもうちぐらいでしょう。

職人8割、商人2割がちょうどいい

田中國安さん

主人の 「田中國安」 さん

売り上げを伸ばそうと、ごはんや刺身などを付けた定食にして千数百円で売る店があるけれど、それなら量を増やせばいいんですよ。 食材のロスが増えるので、利益率は却って悪くなるでしょ。

うちは品数も値段も抑えて、営業時間は午後3時までだけれど、ちゃんとやっていけています。ゴミで出るのは、だしガラと海老と卵の殻ぐらい。無駄をなくせば、蕎麦屋ほど儲かる商売はないと思いますね。 うどんは特に利益率は高いですよ。 国産のうどん粉を使っても、原価は蕎麦の三分の一ですから。 もちろん、おいしくなればとお客さんは足を運んでくれません。

うちのうどんは、二種類の埼玉県産の小麦粉に、群馬のうどん屋さんから仕入れる自家製粉の地粉を混ぜています。 それぞれの粉の特性を生かしつつ、細切り用と釜揚げ用に配合するわけです。

サービスも重要ですね。 たとえば、2人でいらしてせいろ3枚を頼まれた時には、本当はね、一度に3枚出したほうが3枚目は水がよく切れるから、おつゆがのっておいしいんですよ。 でも、お客さんにそれを言っても押しつけになるだけ。 後からもう1枚、茹でたてを持っていたほうが喜んでもらえるんですね。 いいものを出したいという職人的な信念は強いけれど、商売人であることも必要。 私は職人8割に商人2割ぐらいかな。 このぐらいの配分がちょうどいいように思いますね。

蕎麦の旨さはつゆにあり

御前せいろ

御前せいろ 500円

細切りうどん

細切りうどん 500円

蕎麦屋さんには「蕎麦が主でつゆは従」という方もいますが、私はどちらも主、むしろつゆのほうが少し上だと思います。ですから、手間はかけますよ。 もり汁のだしは本枯れ節でも備長炭で焼いた香りの高いものと遠赤外線のものを同割で混ぜています。 どちらも厚削りでなく、粉砕した粒状のもの。湯12ℓに対して2キロと量もたっぷり使って、短時間で煮出します。 「そんなに多いんですか?」とよく驚かれるけれど、そのぐらい使わないと、おいしいつゆにはなりませんよ。 湯桶を飲んだ時にふわっと余韻が残り、「あぁ、おいしかった」となるのが、蕎麦屋の蕎麦でしょう。

熟成期間も大事です。うちではかえしとだしと合わせてから、1週間は低温倉庫に置いてますね。 この方法は、実はたまたまわかったこと。ここの店を開いた時、お客さんが来ないからもり汁が余ってね。数日後に飲んだらこれが旨い。まろやかになるんですよ。 反対に、かけ汁は毎日、取っていますよ。 かえしは2種類の薄口醤油などでもり汁用とは別に作って、だしは亀節だけ。鯖節や宗田節は旨味はあるけれど、脂が多くて臭みも出てしまう。 その点、脂が少ない亀節は、すっきりとした味になるんです。

つゆを作る時には、電磁調理器を活用しています。調理場が熱くならず、ガスよりも熱効率が高い。何より温度管理ができるので、ブレが少ないんです。味は塩分濃度計でもチェックします。勘が頼りと言うと聞こえはいいですが、器具や機械を使うことも大切だと私は思いますね。

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